今、その人に、3つの視座を尋ねる連載「SCOPES」
今回お話を伺うのは新田メイさんです。
一つ目の質問「音MADの投稿/活動を始めたきっかけを教えてください」という点についてお話を詳しく聞いてみたいと思います。
今回の質問に対する回答はこちら。
・音MADの投稿/活動を始めたきっかけを教えてください
音MAD自体の存在を知ったのは、2012~2013年頃だと思います。当時はドナルドやブロリーなどのいわゆる「おもしろ動画」の一部として音MADを認識していました。2016年頃には淫夢やクッキー☆に出会い、「自分でも動画を投稿してみたい!」とニコニコ動画での動画投稿を始めました。この頃投稿していたのは音MADではなく一発ネタのような動画ばかりでしたが今の活動に少なからず繋がっていると思っています。そこからしばらくはイラスト制作に熱を入れており、動画投稿は一旦休止していました。ひたすらクッキー☆の二次創作を描き続ける日々が続き、上達する喜びと、コンテンツに貢献できる嬉しさを糧に過ごしていました。
2018年頃、アイドルマスターシャイニーカラーズがサービスを開始しました。ここが自分にとって大きなターニングポイントです。キャラクターやシナリオの魅力に惹かれ、イラストでの二次創作を進める一方でアイマスMADというジャンルとの出会いもありました。ノクチルというユニットの「福丸小糸」というアイドルが登場してしばらく、自身が所属していたコミュニティ内でTwitter上にハッシュタグをつけて毎日イラストを投稿するという流れがあり、その中で始めたのが「#毎日福丸」です。パロディを中心に投稿していたのですが、イラスト以外での表現方法でも投稿したいという気持ちが芽生え、ここで「手段」として音MADの制作を始めました。
制作の参考として様々な音MADを見漁っているうちに、毎日福丸の「手段」としてではなく、音MADを作ること自体を「目的」として活動したいと思い始め、現在に至ります。これらの過程がなければ音MAD制作にはたどり着いていなかったと思います。
(やりとりの期間:2025/8/28~2025/9/12)
─改めましてこの度のご参加ありがとうございます。引き続き、自分からもお話伺えたらと思います。よろしくお願いします!
よろしくおねがいいたします!
─自分が新田メイさんを知ったきっかけはTwitterのイラストでしたが、音MADを投稿してからの活動の幅というのは広がり続けているように思います。またその中での新田メイさんご本人の関心、興味というのは一貫して伝わるというのが独特な活動スタイルだなと思い今回お話をお聞きできればと思いました。回答を見て、音MAD前後にもいろんな活動をされていたというのが驚きです。特に、淫夢・クッキー☆の動きは2010年代当時に勢いを伸ばしたところかと思いますが、新田メイさんはどういったところに惹かれたのでしょう。
自分が淫夢・クッキー⭐︎に惹かれた大きな要因としてBB劇場の文化があります。当時おそらく初めて見たBB劇場動画が
「子育てするココアライオン」で、内容もさることながら既存のキャラクターを独自の解釈で役に当てはめ、物語を展開していくという類を見ないBB劇場の文化に心惹かれてしまいました。音MADが好きな理由にも近しいものがありますね。
─キャラクター性が投稿者の扱い方によって変化を重ねていくというのは確かに音MADにも通じる部分ですね。動画投稿からイラストへ活動を移したのにはどういったきっかけがあったか、お聞きしてよろしいでしょうか?
元々イラスト自体はちょこちょこと描いており動画投稿と並行して行っていたのですが、自身の成長の面でイラストの方がモチベーションを保つことができたので、動画投稿から少しずつイラストの方にシフトしていった次第ですね。動画投稿に関してはAviutlやREAPERで制作をしていたのですが当時はまだ今ほどノウハウを記したものが少なく自分の検索能力が低かったのもあり、挫折のような形になってしまいました。
─仰るように、ノウハウが探りやすくあるかというのは継続には関わるところだとも思います。現在の活動に結び付く、もうひとつの大きいきっかけとして、シャニマスとの出会いをお話いただいています。このコンテンツに触れるきっかけはどちらにあったのでしょうか?また、アイマスシリーズ自体への関心などはそれ以前にはあったのでしょうか。
アイドルマスターシリーズはシンデレラガールズや765ASなどのアニメは見ていたのですがゲームに関してはほぼプレイ経験がなく、シャニマスが初めてしっかりとプレイしたアイマスシリーズですね。シャニマスとの出会いは事前登録キャンペーンでした。はじめはアイマスシリーズの新作だから、と何の気なしにプレイしようとしていたのですが、サービスが開始し実際にキャラクターやシナリオに触れたことで完全にシャニマスに心を打たれてしまいました。基本のゲームのシステムとしてアイドルを育成し、W.I.N.G.というコンテストで優勝させるというのが大筋なのですが、その中でアイドル一人ひとりの「アイドル」に対する向き合い方であったり、仕事を通しての成長であったりをプロデューサーとして見守るという構図が大変没入感が高く、初めてアイドルをW.I.N.G.で優勝させることができたときは恥ずかしながら号泣してしまいました。そのほかにもユニットのシナリオがあり、そちらでも関係性の描き方が素晴らしく、一気にシャニマスにのめりこむようになってしまいましたね。
─没入感の高さというのはプレイヤーからもよく所感として話を聞くところです。このあと「#毎日福丸」のイラストを投稿されると思うのですが、数いるアイドルから福丸小糸にスポットを当て始めた理由をお伺いしたいです
毎日投稿企画を始めるに当たって、自分の成長をより実感できるようにシャニマスのアイドル一人を描き続けたいという気持ちがありました。誰を選ぶかとなった際、キュートでコミカルな扱いができ、パロディ的なネタも描きやすいであろう福丸小糸さんにスポットを当てることにしました。しかしながら毎日投稿ともなるとモチベーションの維持が難しく、本来の目的である上達はおろか一日一日のクオリティを保つことすら困難だと感じてしまいました。
そこでいっそ毎日投稿を続けることだけに集中してしまおうと決め、結果的に今のような「あの顔」になってしまいましたね。
─なるほど、どちらかというとイラストとしての扱いやすさがあったのですね。そこからなぜ音MADへ結びついたのでしょうか。
毎日福丸は基本的にパロディを扱っていたのですがネタが完全に尽きかけていた時期がありました。そんな時にふとPCに入ったまま放置していたAviutlが目に入り、動画というフォーマットであればかなりパロディの幅が広がる!と嬉々として動画制作を始めたのを覚えています。
動画路線に入ってからはTwitter上での反応も増え、モチベーションがかなり増加しました。2022-2023年当時はボカロMV系のパロディが多く、その制作の過程で特に参考にしていたのが音MADでした。動画制作への熱がありあまっている中、「いっそ音MADも挑戦してみよう」という心持ちになり制作したのが
「福丸キャニオン」です。なぜ原曲にサンドキャニオンを選出したのかは覚えていませんがこの頃は相当音MADという音MADを見漁っていた記憶があります。そこからさらに音MAD・動画制作への熱が上がり、最終的に毎福という枠を超えてYTPMVやセリフ合わせといった音MADの制作に乗り出しました。
─Twitterでの反応のスピード感や、参考になりやすいフォーマットの存在は大きいかもしれません。それ以前にいろいろな制作を経験された上で音MAD制作に触れてみた時の、実際の工程から感じる所感など伺ってよいでしょうか。作ってみてわかった音MADの性質などでも大丈夫です。
構成の練り方・組み立て方が他の制作よりも特殊だなと感じました。
自分の場合はイラストは構図中心に、動画は音声のみに合わせた構成を考えるのですが、音MADの場合は動画と音声の両側面から同時に構成を考える必要があり、難しくもあり面白いところでもありますね。それこそ、動画と音声だけではなく素材・曲・リスペクトなど様々な要素という点を線で繋げる感覚は音MADでしか味わえないと思います。
─たしかに、同時に複数の要素を並行してアイデアのもととできるのは音MADの工程の自由さにつながっていそうです。制作の参考として音MADを見漁っているとありましたが、具体的にはどういった動画から影響を受けたのでしょうか。
毎福でボカロ系MVのパロディを制作する際には使用する楽曲の音MADを参考にしていたのですがその中でも特に印象に残っているのが「マーシャル・バトルドーマー」ですね。原曲のMVはテキストベースなのですがそれを拡張した上で独自のストーリー性を持たせ、素材達と原曲の雰囲気を際限なく活かした作りに圧倒されてしまいました。
音MADの制作方面では当時は「私的オールスター」という文化への憧れが強かったため、「【合作】素材が被ったら黒塗りにされる私的合作」にかなり影響を受けていますね。これが後に自分が主催した「素材が被ったら毎日福丸にされる合作」を企画する大きなきっかけになっています。
─激しいテンポのテキストが多い音MADの映像作りというのはその点で引き出しを多数刺激されますね。音MADの制作においては「私的オールスター」への憧れとありますが、これは先述された「様々な要素」が繋がる感覚にも関連するのでしょうか。
そうですね。「私的」というだけあって映像・音の作りだけではなく素材の選び方・組み合わせ方で作者それぞれの色が出るという点が自分の中で非常に興味深く、見ていてワクワクします。同じ曲、同じ素材であっても作者によってアプローチが全く違うので作者の数だけ可能性が広がっていくな、と感じます。
─作者それぞれの色というのは今後も一つのキーワードになっていきそうですね。新田メイさんの投稿動画を見ていると、私的オールスター的なものとは別に「立ち止まれない」や「THE RALLY」など、あまりほかの動画では見られない素材を扱った動画もあります。こういった音MADにはどういった動機があるのでしょうか?
挙げていただいた上記のようなセリフ主体の音MADを投稿するようになった要因として、「余白合作」「NUSKOOL -ラップ調音MAD」との出会いがあります。
ミニマルな構成故のセリフ合わせの心地よさや言葉の際立ちが当時の自分にはかなりの衝撃でした。特にNUSKOOLをotogroove(音MAD上映イベント)の会場で見た時の興奮は鮮烈に残っています。自身がこういった音MADを作る際の動機の一つとして「この曲やこの素材が自分の中で印象に残っているけど音MADは少ないから見てみたい」というのがありますが、制作の過程で素材の言葉と向き合いながら曲に当てはめていく工程が楽しくて作っているところもありますね。
─挙げて頂いた動画は確かに、今まで音MADでは扱われていない楽曲や素材に焦点を当てる機会になっていると思われます。こういった動画に影響を受けて作った音MADに使われたアニメやゲームなどは、新田メイさん自身がこれまで音MADやインターネット上での制作活動とは別軸で続けられた趣味を落とし込んでいるのでしょうか?
そのような形になりますね。昔から、自分の好きなものを発信・共有する機会というものが少なく、元々好きだったものを音MADという出力媒体を通して使用するのは今でも新鮮で楽しく感じています。主催している合作でも、参加者・視聴者ともに楽しめるようにコンセプト・テーマを提示するのですが、その前提として「自分の『好き』に付き合ってもらいたい」という思いがありますね。
─好きなものを発信する媒体としての音MADと聞いて一層見えてくる魅力はありますね。仰っているような合作や企画からも、そのような志向を感じます。最後にお聞きしたいこととして、音MADを作ること自体を目的として活動、とありますが、この「目的」には一貫した姿勢などありますか?軽やかなフットワークで音MADのフィールドを駆け抜ける最中と見受けるのですが、だからこそ、現時点での目的のスケール感などお聞きしたいです。
音MADを見ていると、時折とても輝いている作品に出合うことがあります。ここでいう輝いている、というのは再生数などの数字的な意味合いではなく「やりたいことを全力でやっている」ように見えることです。そういう作品はきっと自分だけではなく他のだれかにもそういう風に映って影響を与えていると思います。音MADを作る「目的」の根底にはこういった「輝いている作品を作りたい」という思いがありますね。
自分自身が輝きたい、というよりかは自分の作った音MADが誰かの目に輝いて映り、影響を与えてほしいという気持ちです。実際に合作に参加者として招待をいただくと、自分の「目的」は少しは果たせたのかなと安心します。まだまだ音MAD作者として未熟ですが、いつか自分でも輝いて見える作品を作りたいですね。
今回の記事は以上となります。
次回は二つ目の「直近の音MADにおける動向で印象深い出来事は何ですか」という質問についてお話をしていきます。
次回の更新は11/20(木)22:00を予定しています。
引き続きよろしくお願いいたします!