SCOPES

今、その人に、3つの視座を 尋ねる連載

vol.5-2 回初帰

今、その人に、3つの視座を尋ねる連載「SCOPES」
今回お話を伺うのは回初帰さんです。

www.nicovideo.jp

二つ目の質問「直近の音MADにおける動向で印象深い出来事は何ですか」という点についてお話を詳しく聞いてみたいと思います。

今回の質問に対する回答はこちら。

・直近の音MADにおける動向で印象深い出来事は何ですか

動向というほど大きな流れかわかりませんが、音MADで使われる曲の中で海外で流行った後に日本で流行る例が最近いくつかあったな、と感じたことはあります。例えばノウナイディスコハルジオンのような曲は、韓国で2022年頃緩やかに流行って落ち着いた後で日本で流行った感じの流れでした。
互いの流行に何か関係があるのかはわかりませんしどっちが遅れてるとかそういう話ではなく、それぞれ作風の傾向などが見られて個人的に楽しく追っています。

日本の曲が海外で先に流行っている現象自体も不思議で、逆にこちらで海外曲MADがそれほど大きく流行るのはYTPMVを除いてほとんど見られないんですよね(最近だとAPT.ぐらい?)。それだけJ-POPの影響力が強いのか、海外作者層に日本オタクが多いということなのか、両方かもしれませんがこれも少し気になっています。

(やりとりの期間:2025/8/6~2025/8/31)


─興味深い視点です。例にあるような最近使用される楽曲の多くは「ボカロ」としてくくられることが多いですが、音MAD内の流行という観点で見ると各プラットフォームや土壌でもう少し細かく見えるものがありそうですね。韓国での音MADの流行曲として「ノウナイディスコ」「ハルジオン」の2曲挙げられていますが、こちら思い当たる動画には何があるでしょうか。

思い当たるというと、前者は黒人オールスターが素材の「ニゴディスコ」(リンクは再投稿版)、後者は日本でも最近見かけるイ・ホソン素材の「死亡草」ですかね。どちらの曲も元凶はまた別にありますが、流行った直接的な理由はここにあったと記憶します。
両方とも素材は少し不謹慎なのですが作品としての活用法が見事で、そのために構成がより印象的に見えたのだと思っています

 

─海外の音MAD作者層は日本に比べて、こういった点へ切り込むような視点があるようにも見えますね。楽曲に関しても、ポップな展開というよりも少しシリアスな空気感を感じさせるからこそ、こういった題材を扱えるのかもしれないです。他に、同楽曲で海外投稿の印象的な音MADはあるでしょうか。

他に「ゴニディスコ」なんかはタイトルや音声構成が前述の動画からのテンプレに従っていながら、サビの映像で素材原作のモチーフを取り入れて一段階昇華させていると思います。後者だと英語圏の動画(作者は中東の方のようですが)で「ノスタルジア」が、YTPMV的とも音MAD的とも言える混ざった感じで日本の動画とまた違う良さがありましたね。

 

─拝見しましたが、ドラマ性やそれぞれの人物の相関などが動画内でも描かれる分引き込まれる構成であるように思います。日本の動画と比較した際、楽曲の扱い方として傾向や違いなどはどう感じるでしょうか。

あちらは「この曲にこの展開」という1つの答えが出た後からは基本その形に沿って発展されていく傾向があると思います。先程のノウナイディスコの例もやはりそうで、元の構成を拡張する方向での動画がいくつか出て流行りが落ち着いた印象です。
一方日本ではテンプレートがある程度固まってくると、それを大きく破るように楽曲アレンジなどの試みが現れて二次、三次ブームという風に繰り返し消費されているように見えます。

 

─自分も似た所感を受けますね。日本だとナユタン星人楽曲はそういった印象での拡張を感じます。
これは情報としてご存知であればお聞きしたいのですが、まだ日本の音MADでは流行していない日本の楽曲を扱っている海外のMADなどはあるでしょうか。個人的にはbilibiliをメインに活動されてる「萎缩的帝国」氏はそのような印象を受けます。

確かにその方の動画は独自の選曲が多いですね。せっかく例に出たので同じくbilibiliで言うと「拉X的人们」氏の選曲が、ほとんど日本の曲でありながら音MAD界隈と完全に独立していて面白いです。こういった人力VOCALOID、あちらでいう鬼畜調教メイン動画では特に全くMADがない日本の曲を見かける機会が多いと感じます。
あとは、曲単位だと恋愛裁判MADが韓国でたまに上がって再生数もなかなか回っています。これはニコニコ動画にも上がっていそうなものなのですが、調べてみるとほとんど出てこないんですよね。

 

─まったく知らない動向、楽曲群でした!恋愛裁判MADの動画も拝見しましたが、一曲の構成を通して台詞の掛け合いから人力VOCALOIDへ移行するような構成は日本の音MADにも似たものを感じます。そのうえで韓国内で完結しているというのは興味深いところですね。人力をメインにしているという面では自分もお話聞いてクッキー☆系の音MADを投稿されている「LArk25」氏も思い出した次第です。
いちど逆のパターンも考えてみたいのですが、逆に日本のみに流行がとどまる楽曲に思い当たるところはあるでしょうか? 

ちょっと調べてみたんですが、最近の曲は大体輸出されているような気がしますね。どうしてもコミュニティが近くなった今だと、特に作風的にも似た国ではほとんど時差もなく共有されている印象です。流行というかちょっと古くからの定番曲だと「恋愛レボリューション21-秋葉工房mix-」とかは、ノリがザ・日本MADという感じであまり海外で見かけませんね。昨今のJ-POP、ボカロ、アニメはそれ自体が世界的に広まりやすいのに比べて、こういった曲はそもそもMAD以外で知る機会がなく視聴者層にも伝わらないのではないかと思います。

 

─ありがとうございます。自分も思い起こすとアイマス系の楽曲や題材などは海外圏ではそこまで触れられていない印象がありますね。世代が少し前にさかのぼってしまうこともあって、最近の流行というところとは異なるかもしれませんが……。仰るように、MAD内で扱われる傾向が強くなったジャンルに比べて、それ以外の楽曲を知る機会は少なくなっているとも思います。
話を「APT.」などの海外楽曲に向けますが、回初帰さんが音MADを探す中でそういった海外楽曲が使用されている動画などはあったでしょうか?日本国内に限らず、思い当たるものがあれば海外の動画でも大丈夫です。

APT.の例に近い楽曲だと、ちょうど直近で「ヒカナムスタイル/ヒカキン&PSYキン」という動画が出ていて、調べた感じ流行った当時からもいくつかMADがあったようですね。10年以上前にはKARAのミスター(sm17170321)や少女時代のGee(sm14791287)のように日本語版のある曲は使われることもありましたが、この辺はK-POPブームを皮肉る意味が大きかったかもしれないです。
一方洋楽だと、「September」「Scatman」などは昔からずっと長いこと使われている印象です。こちらは日本でも、流行ることはなくともチラホラ色々な曲で作られているようにも思いますが、私が西洋のことには明るくなくてこのあたりはよくわからないです。

 

─たしかに、江南スタイルは動画に使用されている様子も当時から見ていました。上げられている楽曲は一般的にも流行したイメージもありますが、おそらくイントロやサビのリズムが先行した印象に入ってくるのがそういったMAD的なリズムの差し替えにも手を付けやすいのではないかと思いますね。お話した中でも、海外楽曲の流行の理由というのはいくつか見当をつけられそうですが、実際の面というところでは諸々本項を見た海外の方からも追加の情報なども知ってみたいところです。
最後にお聞きしたいのですが、回初帰さんの方からは海外の楽曲で音MADを作ってみたい、などの意欲は現在あるでしょうか?

時間さえあればやりたいですね。普段から曲をいろいろ聴いているので、活かして何か出来たらと考えることはあります。
ただそれよりは、私以外のいろんな方の作風で見ることができたらいいなとも思います。と言っておきながらそういう動画があるのかもそもそもあまり知らないので、私ももう少しちゃんと動画を探してみることにします。


今回の記事は以上となります。

ここまで拝読いただきありがとうございます。
次回は三つ目の「音MADの領域において今後見てみたいものはありますか」という質問に頂いた回答についてお話をしていきたいと思います。

次回の更新は10月を予定しています。

引き続きよろしくお願いいたします!