SCOPES

今、その人に、3つの視座を 尋ねる連載

vol.1-2 hacococo

今、その人に、3つの視座を尋ねる連載「SCOPES」

今回お話を伺うのはhacococoさんです。

www.nicovideo.jp

第2回更新分ということで、2番目の質問に頂いた回答ついてお話を詳しく聞いてみたいと思います。

 

今回の質問に対する回答はこちら。

・直近の音MADにおける動向で印象深い出来事は何ですか

音MAD自体は驚くほど進化してるとかそういう風に思ってはおらず、音声や映像の表現などが幅広くなってきている。でも、基本は昔と変わらず、な印象。
それよりも合作などもそうですが音MAD関連のイベントの活発さと、日本のみならず韓国や中国など国外へ広まってそちらでも音MADのイベント等が行われるようになったというのが印象深いというか興味深いというか。みんな元気だなーって。
2010年代後半頃、自分も様々な企画に多少関わってましたが、その辺りからどんどん活発に更に発展していくとは思いもしませんでした。

(やりとりの期間:2024/12/25~2024/12/27)

下記から、こちらの回答についての会話を記録していきます。
よろしくお願いいたします!



──続いての質問への回答ですが、基本は昔と変わらない、という箇所を改めて詳しく伺ってみたいなと思いました。おそらく、音MADにおける技術的な部分の拡張と構造的な部分の一貫性に関しての言及であるように自分は受け止めたのですが、まずはこの認識でhacococoさんからのお話聞いてみても良いでしょうか?

音MADの基本的なスタイル、技術的構造(基礎という方が正しいかも)は、声や効果音などをサンプリングした楽曲から始まってニコニコ初期の音系MAD(2007年頃)までに完全に確立されたと思っていて、その後のものは様々な表現技術や展開の仕方などで本当に色々新たに生まれていきましたが、それは応用としての表現の変化のうち。
音MADの基本は台詞や素材の音程(音合わせ)を曲に合わせる、更に動画はその音声に合わせて展開させていく。これは昔から一貫していると思っています。
たまに音MADの常識を突いて驚かせる動画が出ますが、それらも音MADの基本があってこそなので。

漫才分野に例えてみると、M-1でのトム・ブラウンやマヂカルラブリーが、漫才か漫才じゃないかという問題について、立川志らく「漫才の基本のスタイルはセンターマイクをはさんでそこから動かない、それが王道」というように、そのような基本を完全に逸脱、破壊するとそれは漫才(音MAD)ではない、になるのではないかと思ってます。
(曲や台詞を弄ってなにか喋らせたりするものなどは音MADというよりMADジャンルだと思ってますが、音声を弄ってるから音MADだという論については正直未だに答えがまとまってません) 

 

──何を音MADと据えるかは個人によって起こし方が異なると思うので、こういった話が聞けるのはありがたい限りです。ニコニコ動画の音MADタグの起こりを体感していたというところを鑑みると、当時にも多様なアプローチが試される中で一貫した地盤の広がりがあったのだと憶測することはできますね。
これは踏み込んだことをお聞きしたいのですが、hacococoさんが今まで辿ってきた音MADの中で、そういった技術的構造を揺るがしたり、考える分岐点になったような動画、あるいはそう感じた場面はありますか?完全に離れていなくても、そのラインに挑んでいると思わせるような位置づけでも大丈夫です。

2009年から始まった『本格的男尻祭』でとんでもない技術とオリジナルメドレー書き下ろし。これはとても驚きました。それと同時に作者たち、視聴者たちに合作をすれば凄いものができるとちょっと勘違いをさせてしまったと思ってます。
本格的男尻祭は綿密な計画性と作者達の強い熱と連携によってできたものであり、ただ合作をすれば良いものができるわけではないと思います。その後の合作でも評価の高い合作は主催や運営陣による強い熱と計画性、それをしっかり理解している参加者の努力のおかげで完成度が高くなったもので、ただ普通に合作をやったとしても、どうしてもどこかチグハグなものができてしまうんだと思います。
あとは『霊夢 so クッキー☆』。それ以前にも一転攻勢に近い動画はあったと思いますが、この動画でハッキリとした一転攻勢という元々は真夏の夜の淫夢1章などにあったものを上手く音MADに落とし込んでいくことに成功させ、後に『Tomodachi Spirits』 など色々と進化して派生していき、今ではお馴染みの技法になった、と考えてます。
他では作者になってしまいますが、bonosanさん、コツ連打らさん、月面ドリルライナーさんの動画は他では見ないタイプで、常に新しく、今見ても古く感じさせない構造と発想で、他の人がそれに近しいところまで到達する頃には、彼らはもっと先にいっている……そんな感じの印象です。

 

──挙げていただいた動画や企画、作者においては、音MADという媒体を拡張する契機になったような印象を自分も受けます。もたらした影響の広さはもちろんですが、それでも当時の段階で強度の高い独自性を発揮し続けているのも納得はありますね。
続いての回答からの記述として、イベントの活発さについての言及もあります。ここでいうイベントというのは、いわゆる合作等ではなく、オフイベントや生放送に含まれるような、そういった動きのことを指しているのでしょうか?

そうですね。『音MADLIVE』『音MDM』『超晒し』などの生放送イベントから『otogroove』などのオフイベント、果てはコミケなどで音MAD関連の合同誌やCDなどが次々と生まれていったことです。
2025年の『音エキスポ』では過去最大規模のリアイベ、生放送、合作など複合イベントが目白押しでこれもまた音MAD界隈が元気だなぁ、と思いました。

 

──このように見ると、ここ数年のイベントにある脈絡があるようにも思いますね。これは話の時期がさかのぼってしまうのですが、音MADLIVEの際にはいち運営として自分もご一緒させていただいた記憶が残っています。この当時はまだ生放送上でのイベントを立ち上げること自体が前例の少ない時期だったと思いますが、運営としてご参加された当時の心境を、今振り返る形からでもお聞かせ願えますか? 

どういう経緯で運営に参加したのか、ログを探しても見当たらないんでそこらへんがあやふやなんですが(確かBaN長さんから直接お誘いいただいたような)、最初企画内容を聞かされたときはアイマス『MADLIVE EXP!!!!!』を知っていたので、それの音MAD-mix版とはこれは面白くなりそうだ、と生放送上でのイベントという不安も特になく、すんなり受け入れられました。
当時はDiscordがなくSkypeで毎回脱線しつつも遅くまで会議していたのが今でも鮮明に記憶に残ってます。 

 

──たしか、かつてあったブロマガというサービスにてBaN長さんが運営を募集したことを皮切りにスタートした記憶もありますね。何名かは召集もあったかとは思いますが、いずれも運営としてのメンバーは各人の分野で動いていたような印象でした。
直近は大内乙打さんと共にいずれかのテーマに沿った音MAD特集の放送をされていますが、それは近年の生放送関連の動向を受けての発端なのでしょうか

音MADLIVE、自分が運営として何かしてたかっていうと、何やっていたかあんまり覚えてないんですけどね(何名かに声かけしていたくらい?)。
大内さんと特集をやり始めた発端は2019年の11月ごろに作業通話をしていて「BAD ENDの音MADを集めて特集してみたら面白いんじゃないか」というような話になって、とりあえず募集をかけつつ自分たちの知っている動画や自作の動画内でBAD ENDっぽい動画を自薦してみたり……。

w.atwiki.jpその生放送での音MAD特集が結構好評だったので、毎回様々なテーマに沿った音MADを募集してそこから厳選して、感想や解説を交えつつ語る(大内さんがそこまで音MADやアニメなどの素材に詳しくないので当初は自分が解説という立ち位置で)というような形で気づいたら5年もやってました。
やり始めた頃は結構音MAD関連のニコ生も増えてきていて。ボトルさんがやっていたボト生の影響も結構あったと思います。大内さんのところでもリク生はありましたが、音MAD限定とかではなかったので。それで一緒にやろう的な流れだったと思います。

 

──5年となると、なかなか長期にわたっての放送ですね。そういった特集生放送では、hacococoさんも予測しない角度からの動画が流れたりするのでしょうか。

「言われてみれば」というような動画や全く予想外の動画がきたり、さすがに無理があるのに選出理由が面白くて採用、といったものは結構あります。選出理由の欄はほぼ大喜利と化していて面白ければそのときのテーマと沿っていなくても、無理矢理こじつけて紹介することはあります。
あとは、自分も把握していなかったような埋もれている動画が投票されると、特に嬉しいですね。知らないものを知ることができた喜びとかで。

 

──自分も他人からのレコメンドなどで予想外の動画などが来ると同様の嬉しさがあります!特に印象に残っている動画と、その際のテーマを教えていただいてもよろしいでしょうか?

「東方音MAD特集」でのMVP 『メタル霊夢踊ってみた』 。よく考えたらこれは音MADの踊ってみたなのにインパクトがあり、意外性もあって採用しました。1万再生未満のこれをよく見つけて送ってきたなーと。
あとは、「これがやりたかっただけだろ音MAD特集」でのMVP 『札幌ハーフマラソンタルチェンソー』 。この特集で初めて知ったのですが、わざわざ「ワイナイナ」というフレーズを使いたいがために探してきたであろう素材を使っている点も含めて、本当に「これがやりたかったんだな」と思いました。
他には「登場人物が二人の音MAD特集」なんですが、そもそも音MADで登場人物が2人しか出てこないとかそういうところに着目して見たことがなかったので投票された動画群を見て「言われてみれば確かに…!」と思いました。この回のMVPの 『んえ~っとですねーたまてって名前は猪木ボンバイエが由来でして』 も本当に言われてみれば出てくる人物が二人しかいない(別に共演してるわけでもない)という点で面白かったし、強く印象に残ってます。

 

──つぶさに教えていただきありがとうございます。こちらすべて拝見いたしました!どれも紹介系の放送でも見かけない作りですね。
先述されたボト生でも、こういった特有の面白さを持っているニッチな題材の動画にスポットが当たっていた記憶があり、それを彷彿とする温度感だと思いました。
質問の回答からの記述内容へお話戻りますが、韓国や中国など、海外のイベントにも言及がありましたね。こちら、音MADにおける海外の動向や交流の在り方などはhacococoさんが活動をはじめた当時からどのように印象が変わっているでしょうか。

最初は海外ズの登場、MatrixmarioXさんなどの海外の音MAD作者の登場、そして『国際的男尻祭』辺りから結構海外の音MAD事情について意識するようになりました。2010年代中頃には結構海外作者との交流も増えてましたし。
それ以前だと『M.C.ドナルドはダンスに夢中なのか?最終鬼畜道化師ドナルド・M』YouTubeに転載されて海外でも人気になり、踊ってみたや歌ってみたといった動画が投稿されていて、音MADは海外でも理解できる面白いものだと思ったので、いずれ外国産の音MADが作られるようになると予想はしてました。
自分の予想よりもかなり早い勢いでそれぞれの国々(特に韓国や中国)にて独特の音MAD文化が形成される、というようなところまでは流石に予想できてませんでしたが。

 

──自分も2024年は海外の音MAD圏に触れる機会が多く、その層に圧倒されました。hacococoさんからは韓国、中国の展開と日本のそれを比較した時に気付く点などはあるでしょうか?

韓国、中国ともに文化圏では近いからか、全体的な動画のつくりや内輪での変わった素材の流行自体は割と日本と近い印象です。作者の数が多く、それぞれしっかりとコミュニティが形成されているからでしょうか。
韓国は主にYouTube、中国はbilibiliを中心としていて、日本のニコニコ動画の音MADとは定番素材が違うのも(言語が違うので)当然ですが、なんでこの素材が人気・定番なんだろう?と思うことは結構あります。
以前、中国の作者や韓国の作者とお話をする機会があった時に「なんでそちらの国ではこの素材が定番なんですか?」とか訊いたことがあって「これはこういうシーンで面白く、音MAD素材としても使いやすいから」と説明していただいて「ああ、日本で流行る素材と経緯はだいたい同じ感じなんだ」と思いました。それぞれの国で定番素材となった経緯が分かれば、なんとなく納得いくと思います。
逆に「日本ではなんでこんなのが流行ってるの?」というような質問はなかったので、あちらの方が日本の音MADに対して理解度が高いんじゃないかと。(ただ単に日本語ができる作者と日本語でチャットしただけなので特に疑問に思われてなかっただけだと思いますが)

イベント(オンライン、オフライン)も日本がやっていて、あれを自国でやりたい!という行動力のある人達が多かったからこそできたんだと思います。
全然詳しくないので憶測ですが、DJイベントなどは日本よりも韓国や中国のほうが盛んなイメージがあるので、その流れで音MADのDJイベントもやりやすかったのではないかと。(当然、その国のルールなど、規制は日本よりも厳しそうなので実現するまでに相当な苦労があったとは思います)

 

──積極的な交流の場にいらっしゃる方からの日本の音MADへの探究の姿勢というのは、お話を伺うと発見もあったりします。仰るように、日本からは馴染みのない題材やアプローチであっても、その動機に関しては共感する場面もあります。また、交流という点では日本語話者がいるのは大変にありがたい限りですね。自分もなにか橋渡しになれるよう、動けたらとは思いますがまだまだ知りたいことは多くあります。

 



今回の記事は以上となります。

ここまで拝読いただきありがとうございます。
次回は3つ目の「音MADの領域において今後見てみたいものはありますか」という質問に頂いた回答についてお話をしていきたいと思います。

次回の更新は1/30(木)22:00を予定しています。
引き続きよろしくお願いいたします!